「遊び心」と地域への「想い」が交差するものづくり|OUCHI企画
真剣にふざけるふたりから誕生した、OUCHI企画
四万十川流域は古くから良質なヒノキの産地として知られている。
深い山間を縫うように、大きく蛇行しながら流れる四万十川の中流域にあたる四万十町。その四万十町の西側に位置するのが十和地区だ。ここでは、四万十川とそこで暮らす人々の文化が織りなす美しい日常が営まれている。
「鮎の網漁など四万十川が文化として残っていて、美しい自然と豊かな暮らしが受け継がれているのが四万十町の魅力です」と話してくださったのが、OUCHI企画戦略アドバイサーの吉田健一さんだ。吉田さんは、2020年にこの十和地区で地元の有志である橋下章央さんと共に合同会社OUCHI企画を立ち上げた。『地域の人を巻き込んで面白いコトをしたい』というふたりの、ふざけながらも真剣な遊び心から立ち上がったOUCHI企画だが、橋本さんは69歳、吉田さんは32歳とふたりの年齢差は、なんと37歳差!親子ほど年が離れているビジネスパートナーなのだ。
偶然は必然!
出会って半年で会社を作る
橋本さんと吉田さんの出会いは突然だった。
「橋本さんとは仁淀川で、フィンランドサウナを体験するというイベントで出会ったんです。その時、紹介していた海外製のテントサウナを見て、製材所を営んでいた橋本さんが、これを四万十町の材木で作れないかと思い付いたのが始まりです。イベントで初めて橋本さんと話した時から意気投合して、出会って半年で、二人で会社を立ちあげていました(笑)」と吉田さん。
富山県出身の吉田さんは、大学の進学を機に高知県に移住。卒業後は県外の企業に就職し、一度は高知県を離れてしまうものの、四万十川の美しい景色とキレイな空気が忘れられず、高知県に戻ることを決意。地域おこし協力隊として高知県に戻り、地元出身者ではない外からの目線で高知県四万十町の魅力を発信していた。そんな矢先に橋本さんと出会い、OUCHI企画を立ち上げた。その後、100%四万十町産ヒノキを使用したアウトドアサウナ「四万十OUCHIサウナ」を製造販売することになる。
みんなを巻き込んで
みんなで楽しく活動していきたい
「それまで、有限会社橋本製材という製材所を営んでいました。自分たちで小さな家『タイニーハウス』を作っていた経験から、仁淀川のイベントでテントサウナを見たとき、タイニーハウスをサウナに応用できるんじゃないかと思ったのがアイデアのきっかけです」と橋本さん。
「それと、地元の木材を使い、地元の人に作ってもらうことで、資源も資金も、様々なことが循環するのではないかと思いました。まずは、山の木を切る山師さん、そして製材に加工する製材所、そして椅子を作る地元の大工さん。地元の人が関わることで経済が動き、結果としてみんなが潤うなと。そこからこのアイデアをカタチにするためにクラウドファンディングを利用し、みなさんに協力してもらって、四万十OUCHIサウナとして商品展開することができたんです。」
精力的に活動し、イキイキと仕事をしている橋本さん。しかしこのように楽しみながら働けるようになったのは60歳を過ぎてからだと言う。
「それまでは、家族のため、家のローンのためにと、自分のやりたいことを全部先延ばしにしてきました。60歳を過ぎて、『いつ、自分のやりたいことをやるのか?』と自分で自分に問いかけた時、『今しかない』と思ったんです。そんな時に、吉田くんに出会って、これまで40年間営んできた有限会社橋本製材を畳んでOUCHI企画を立ち上げました。正直、60歳を過ぎてからの人生が一番楽しいです(笑)」
サウナの利用者の声から生まれた
四万十ヒノキ折りたたみスツール
「四万十OUCHIサウナを使ってくださったお客さんから、毎回、改良点などを聞いていました。すると、サウナ内でベンチに座った時に、足置きがあるといいという意見をいただくことが多く、『それならば!』と足置きを作ることにしたんです」と吉田さん。
「サウナ内で利用する足置きとして製造されたものの、出来上がりがあまりにも良く、足置きだけで使うのはもったいない(笑)。スツールとしても使えるなと思ったのが『四万十ヒノキ折りたたみスツール』なんです」と、少年のような笑顔で話す橋本さん。
さらに別のお客さんからは、抜群の安定感なので、スツールだけではなくてテーブルとしても利用できる。PCをのせて作業するものいい感じ!といった様々な利用法が提案され、そこから『足置き』、『スツール』、『テーブル』の3WAYとして利用しやすい37.5cmという絶妙な高さが導き出されたのだ。
大工さんのセカンドキャリアも
見据えた商品としての魅力
四万十ヒノキ折りたたみスツールは、四万十町の木材で地元の大工さん、それも少し年齢を重ねた大工さんに作ってもらうことにこだわっている。
それは、家を建てることが体力的に厳しくなってくる大工さんのセカンドキャリアとしての配慮からだ。
「実際に、大工さんの顔つきも変わってきたんです。サウナを利用してくれる若いお客さんたちに、作ってもらったスツールを見てもらって、実際に『かわいい』や『すごい』などといった生きた感想をいただけます。大工さんも今までの仕事とはまた違ったやりがいを感じていられるようです」と吉田さん。
さらに橋本さんによると、四万十ヒノキ折りたたみスツールの抜群の安定感は、大工さんの長年の経験とアイデアから編み出されたものだと言う。
「ベテランの大工さんのプロ意識は素晴らしく、私が試作品のスツールを作って大工さんに見せた時、少しスツールがガタついていたのですが、スツールの真ん中にT字のズレ止めを取り付けて改良してくれました」。四万十ヒノキ折りたたみスツールの最大の特長とも言える抜群の安定感は、このようにして生まれたのだ。
職人としてさらなる良いものを目指したい
四万十ヒノキ折りたたみスツールを製造している岩本さんは、大工歴50年以上の大ベテラン。「四万十のヒノキは、香りはもちろんですが、釘の保持力も抜群で本当に良い素材です。改良を重ねることで、良いスツールができました」。さらに、「今までは家を建てる建築を主におこなってきましたが、こういったプロダクトはまた別の魅力がありますね。建築用の材料と違って運ぶ時に重くないのがいいです。それに、雨の日は仕事ができないので、お酒を飲んでいましたが、これだと天気が悪い日にも仕事ができるので体にもいいですね(笑)」。
関わる人々のアイデアが交差し、試行錯誤の末、完成した四万十ヒノキ折りたたみスツールは、開閉の時に特徴がある。鳥が翼を広げたり畳んだりするかのように、座面部分がドラマチックに開閉するのだ。畳んだ際に持ち手になるような工夫も座面下に施されている。「本当に自慢できるスツールが完成しましたが、まだまだ、改良できるところはしていきたいです」と飽くなき向上心をのぞかせる橋本さん。
本当の意味でのmade in 四万十町
開発されたOUCHI企画の四万十ヒノキ折りたたみスツールは、四万十町の木材はもちろん、製作に携わる全ての人が四万十町の人。四万十町の資源を使い、みんなが喜びを分かち合えるプロダクトなのだ。
「スケジュールや費用の面で関わる人たちを泣かせるようなモノは作りたくありません。製造に関わってくれるみんなが面白いと感じられる商品を作ってほしい。そして、購入してくださったお客様にも楽しんで使ってもらう。そうやって幸せの輪が広がっていってほしいんです」と橋本さん。
「四万十町には、素晴らしい木材と技術があります。それがうまく活用されていないのは本当にもったいない。地元の木材と技術にアイデアやセンスという価値をつけて、さらにいいものとして流通させていきたいです」と吉田さん。
OUCHI企画の挑戦はまだまだ始まったばかりだ。
文・広瀬麻衣 写真・岡田悦紀